デジタル世界の評価軸から離れて。リアルな活動が育む、内側からの自己肯定感
デジタル世界の「評価」に疲れていませんか?
私たちの日常生活において、デジタルデバイスは不可欠な存在となりました。仕事でのコミュニケーションや情報収集、プライベートでの友人との連絡、趣味の共有など、その恩恵は計り知れません。しかし、同時に、私たちはデジタル世界特有の「評価軸」に無意識のうちに影響を受けていることがあります。
SNSでの「いいね」の数、閲覧数、フォロワー数といった定量的な評価。あるいは、オンライン上で見かける「完璧」に作り上げられた他者の姿。これらは時に、自分自身の価値を測る基準のように感じられ、そこから外れることへの不安や、他者との比較による疲弊を生むことがあります。仕事でデジタルを多用する方ほど、プライベートの時間でまでこのような評価軸にさらされ、心身ともに休まる暇がないと感じることもあるかもしれません。
このようなデジタル世界の評価や比較から少し距離を置き、心穏やかに、そして内側から満たされる感覚を取り戻すにはどうすれば良いのでしょうか。一つの大切な鍵となるのが、「リアルな活動」です。
リアルな活動がもたらす、デジタルとは異なる価値
リアルな活動とは、スマートフォンやパソコンの画面を離れ、身体や五感を使って行う様々な営みを指します。例えば、庭の手入れをする、料理を作る、木工や編み物などの手芸に取り組む、近所を散歩する、静かなカフェで本を読む、古い友人とおしゃ書きを交わす、といったことです。
これらの活動の多くは、デジタル世界のように即座に誰かから「いいね」をもらったり、多くの人にシェアされたりすることを前提としていません。そこにあるのは、自分の手で何かを生み出すプロセスそのものや、五感で世界を感じ取る時間、そして自分自身との静かな対話です。
デジタル世界での評価が「外側」からのものであるとすれば、リアルな活動から得られるものは、しばしば「内側」からの充実感です。それは、完璧である必要はなく、人に見せる必要もない、自分だけの、自分にとって大切な価値です。
体験から得た気づき:小さな芽が育む確かな感覚
かつて私自身も、仕事柄一日中パソコンに向き合い、移動中もスマートフォンを手放せない生活を送っていました。SNSでの他者の活躍を見るたびに、自分の進捗が遅れているように感じたり、オンライン上での人間関係の機微に一喜一憂したりと、心は常に波立っていました。
ある時、心身の疲れを感じ、週末にデジタルデバイスを置く時間を意識的に作ってみました。特別なことはせず、以前から興味のあったプランターでの野菜づくりを始めてみたのです。土を耕し、種を蒔き、毎日水をやり、小さな芽が出た時の感動は、デジタル上で得るどんな「いいね」よりも鮮やかで、温かいものでした。
成長は遅く、虫に食われることもありましたが、一つ一つの変化に気づき、手入れをする時間は、完全に「自分自身のため」のものでした。誰かに見せるわけでもなく、評価されるわけでもない。ただ、土に触れる感触、植物の緑の色、風に揺れる葉の音、といった五感を通して感じる世界があり、そして、小さな命が育っていくプロセスに寄り添う自分がいました。
この体験を通じて気づいたのは、リアルな活動は、結果だけでなくプロセス自体が豊かさであるということです。そして、そのプロセスの中で得る小さな達成感や、一つのことに没頭する時間は、外からの評価とは全く関係なく、自分自身の内側から「これで良いんだ」「自分は存在している」という確かな感覚(自己肯定感)を育んでくれるということでした。デジタル世界の評価軸から少し距離を置くことで、他者との比較から解放され、「ありのままの自分」を受け入れやすくなったように感じます。
内側からの自己肯定感を育むリアルな活動
リアルな活動は、私たちの心に様々な良い影響を与えます。
- 五感の活性化: 視覚だけでなく、触覚、聴覚、嗅覚、味覚といった五感を意識的に使うことで、脳がリフレッシュされ、現在という瞬間に意識を向けやすくなります。これはマインドフルネスにも通じる効果です。
- 小さな達成感: 自分の手で何かを完成させる、目標に向かって少しずつ進むといった経験は、デジタル上では得がたい、具体的で確かな達成感をもたらします。この積み重ねが、「自分にはできる」という感覚を育みます。
- 集中とフロー体験: 好きなリアルな活動に没頭する時間は、時間の感覚を忘れさせ、高い集中状態(フロー)をもたらすことがあります。これは心の疲れを癒し、活力を回復させる効果があります。
- 他者比較からの解放: リアルな活動は、基本的に自分自身のために行うものです。他者の目や評価を気にすることなく、自分のペースで、自分のやりたいように取り組めるため、デジタル世界の比較からくるプレッシャーから解放されます。
これらの要素が複合的に作用し、リアルな活動は、外からの評価に左右されない、内側からの確固たる自己肯定感を育む土壌となるのです。
バランスを取り、自分だけの「リアルな日々」を
デジタルは私たちの生活を豊かにしてくれますが、その評価軸に囚われすぎると、心身のバランスを崩すことがあります。リアルな活動は、デジタル利用を完全にやめることではなく、デジタル世界と現実世界の間に健康的な境界線を引くための一つの有効な方法です。
仕事でデジタルが不可欠な方も、まずは一日の終わりに数十分、あるいは週末の数時間だけでも、意図的にデジタルデバイスを置いて、リアルな活動に取り組んでみてはいかがでしょうか。それは、大げさなものである必要はありません。温かい飲み物を丁寧に淹れる、部屋の片付けをする、好きな音楽をただ聴く、といった小さなことでも構いません。
リアルな活動を通じて、デジタル世界の評価から離れた、自分自身の内側にある価値や感覚に気づくことができるでしょう。そして、それが、外からの評価に左右されない、あなた自身の揺るぎない自己肯定感を育む一歩となるはずです。心満たされる「リアルな日々」を、少しずつ取り戻していきましょう。