デジタル世界の「いいね」に疲れたら。リアルな活動が育む、揺るぎない自己肯定感
デジタル世界の評価と、心にかかる重み
私たちの日常において、デジタルデバイスは不可欠な存在となりました。特にSNSなどのプラットフォームは、情報収集やコミュニケーションの場として、多くの人にとって生活の一部となっています。しかし、同時に、これらの場が「比較」や「承認欲求」という心理的な側面を刺激しやすい環境であることも無視できません。
他者の活動や成功が容易に見えることで、自身の現状と比較して焦りを感じたり、投稿に対する反応(「いいね」やコメントなど)によって自己価値を測ってしまうような経験をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。これは、デジタル空間の特性上、他者の「良い部分」や「成功した側面」が強調されやすく、それが無意識のうちに私たち自身の「足りない部分」や「うまくいかない部分」と対比されてしまうからです。
このような状況が続くと、心は常に他者からの評価を気にするようになり、内側からの安定した自己肯定感が揺らぎやすくなります。仕事でデジタルを使いこなす必要がありながらも、プライベートでのデジタル利用で心身の疲弊を感じている方々にとって、この課題はより深刻に感じられることもあるでしょう。
なぜデジタル世界は比較と承認欲求を刺激しやすいのか
デジタルプラットフォーム、特にSNSは、ユーザーの関心を引きつけ、利用時間を延ばすように設計されています。その設計の中で、他者の投稿がタイムラインに流れ、自分の投稿への反応が数値として可視化される仕組みは、意識せずとも比較や承認を求める心理を活性化させます。
例えば、ある目標に向かって努力している途中で、他者がその目標を達成した華やかな投稿を目にすると、自分のペースが遅いと感じて落ち込んだり、焦りを感じたりすることがあります。また、自分が時間や労力をかけて共有した情報や活動に対して期待した反応が得られないと、落胆したり、自分自身の価値を低く見積もってしまったりすることもあります。
これらの経験は、私たちの自己評価を外部の基準に委ねてしまう傾向を強めます。そして、この外部依存の自己評価は非常に不安定です。なぜなら、外部からの評価は常に変動し、自分自身ではコントロールできないからです。その結果、心は満たされず、常に何かを追い求めているような感覚に陥りやすくなります。
リアルな活動が育む、内側からの満たされた感覚
一方で、デジタルから少し距離を置き、リアルな世界での活動に目を向けてみると、そこにはデジタル空間とは異なる価値や感覚があることに気づきます。リアルな活動は、他者との比較や外部からの承認を主な目的としない場合が多く、活動そのものや、それを通じて得られる内面的な変化に価値を見出しやすいからです。
例えば、部屋の片付けやガーデニング、料理、手芸、散歩、スポーツなど、身体を動かしたり五感を使ったりする活動はどうでしょうか。これらの活動では、プロセスそのものに集中することで心が落ち着き、小さな達成感を積み重ねることができます。
ある友人は、仕事帰りに自宅で簡単な料理を作る時間を大切にしています。凝ったものではなく、その日に食べたいもの、冷蔵庫にあるもので手際よく作ることを楽しんでいます。SNSに投稿するわけでもなく、誰かに褒められるためでもありません。しかし、食材に触れ、調理の音を聞き、温かい料理を味わうその一連の行為が、一日のデジタルワークで疲れた心身を癒し、「自分自身の心地よさのために時間を使った」という満たされた感覚をもたらすと言います。
また、ボランティア活動や地域コミュニティへの参加など、他者と直接的に関わる活動も、デジタル世界とは異なる深い繋がりや、貢献することによる内発的な満足感を得られます。そこでは、表面的な「いいね」の数ではなく、互いの存在そのものや、共に何かを成し遂げるプロセスに価値が置かれます。
これらのリアルな活動を通じて得られるのは、「他者より優れているか」「他者からどう見られるか」といった外部基準に基づいた評価ではなく、「自分は何を感じているか」「何に心地よさを感じるか」「何に満足できるか」といった、自身の内側に根差した感覚です。この内側からの感覚こそが、揺るぎない自己肯定感を育む土台となります。
リアルな時間を取り戻し、自己肯定感を育むステップ
デジタル世界の比較や承認欲求のサイクルから少し距離を置き、リアルな活動を通じて内側からの自己肯定感を育むためには、いくつかのステップが考えられます。
- 自身のデジタル利用における「比較」と「承認欲求」を自覚する: どのような時に他者と比較して落ち込むか、どのような投稿に「いいね」を求めているかを意識的に観察してみます。まずは現状を認識することが第一歩です。
- 意識的にデジタルから離れる時間を作る: スマートフォンの通知をオフにする、特定の時間はデバイスを見ないようにするなど、物理的にデジタルから距離を置く習慣を取り入れます。
- 「結果」より「プロセス」を楽しむリアルな活動を見つける: 誰かの評価を気にせず、自分自身が心地よさや楽しさを感じられる活動を探します。完璧を目指さず、まずは試しにやってみることが大切です。例えば、近所を目的もなく散歩してみる、気になっていた手芸に挑戦してみる、静かな場所で瞑想してみるなどです。
- 五感を意識的に使う: デジタル利用では視覚情報に偏りがちですが、リアルな活動では触覚、聴覚、嗅覚、味覚など、五感をバランス良く使う機会が増えます。例えば、淹れたてのコーヒーの香りを楽しむ、雨の音に耳を澄ませる、土を触る、食材の感触を確かめるなど、日々の生活の中で意識的に五感を使ってみます。
- 活動の「成果」ではなく「自分自身の感覚」に焦点を当てる: リアルな活動で何かを成し遂げた時、その成果を他者に見せることよりも、自分がその活動を通じて何を感じたか、どのような気分になったかといった内面的な感覚に意識を向けます。「楽しかった」「心が落ち着いた」「気分がすっきりした」といった自分自身の感覚を肯定することで、自己肯定感が育まれます。
これらのステップは、デジタル利用を完全に否定するものではありません。仕事や生活に必要なデジタル利用は続けた上で、意識的にリアルな時間や活動を取り入れることで、デジタル世界での比較や承認欲求に振り回されにくい、内側から満たされた心の状態を目指すものです。
リアルな日々がもたらす、揺るぎない自分軸
デジタル世界の「いいね」や評価は、時に私たちを励ましますが、それに依存しすぎると、自己肯定感は脆いものになってしまいます。リアルな活動を通じて、自分自身の内面や感覚に意識を向け、プロセスを楽しむことから得られる充足感は、外部からの評価に左右されない、揺るぎない自己肯定感を育む力となります。
「リアルな日々」は、デジタルから離れた時間や活動そのものが持つ価値に気づき、それを大切にすることで、心身ともに健康で生産的な生活を取り戻すことを目指しています。ぜひ、今日から少しずつでも、ご自身の心地よさを追求するリアルな時間を生活に取り入れてみてください。その小さな一歩が、あなたの心の状態をより豊かに、より安定したものにしてくれるはずです。